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西部A地区地区大会劇評①

9/17①細田学園高校『桜井家の掟』作:阿部順

 台本は高校演劇では、おなじみの台本です。両親の離婚が決まった4姉妹の家に、
2女の彼氏が訪問してくる日。不良だった次女が脱退した暴走族や次女の彼氏の両親がやって来て……。
 数年前に坂戸高校が上演してそのときは、楽しめました。
 開きかけの緞帳にCLの明かりが当たって残念でした。
でも大道具はパネルが建っていて楽しみな舞台。しかし、上手にパネルの隙間があり、
袖からの出入りが見切れていました。SEのバイク音は迫力がなくて残念。
音響のミスが目立ちました。上手のSPから音が出ない。
そのためか、大き過ぎの音が多い。スマホの着信音もそれらしくない。
 役者は、台詞を客席に届けられない、届いてこない。相手役にも台詞を届ける意識が少ない。
早口。役者が台詞を受けない。役者の動きは、手をどうしていいか困っている様子。
だったら何か持てばとも思う。早口で台詞が流れてしまう。言葉を立てることを知らない。
横向きで台詞を言うことが多い。ポジション取りができない。
 役作りについて。次女の蘭は、男みたいでした。ショートカットで。
髪の毛は金髪で(光一の父の「日本人ですか」という台詞もあるのだから)。
前髪が長く目が見えない。最後のセーターは光一の手編みに見えない。
彼氏の光一は、髪が長く女みたい。切れとは言わないから、ウィッグを利用しましょう。
台詞は明晰だが、早口。登場人物、特に光一の父と母にはスリッパを履いてほしい。
 長女が芝居を回していました。だから長女が仕切らないと舞台全体が厳しかったです。
三女が床に座るときあぐらをしましたが、あぐらは不良である次女の蘭のみにするべきです。
 光一の父は、黒いシングルスーツでしたが、ダブルがふさわしいでしょう。声は大きかったです。
光一の母と暴走族との格闘中に長電話をしているのは変でした。光一の母の衣装や人物造形が疑問です。
父に支配されている母が、暴走族に勝つというのもどんでん返しになってなかったし、
光一の父母の夫婦の関係と、桜井家の両親の婚姻関係の対比も意識されていなかったです。
 2人が会話するとき、会話に関係ない役者がその2人の間に立っていることが多かったです。
ポジション取りは難しいですが。
 拍手の芝居がダメ、役者たちが芝居を意識せずに拍手してしまっています。
拍手でも気を抜かずしっかり芝居すること。
 小道具について。壁の時計は止まっていました。小道具のネギは、偽物。
飲み物の缶がカラ。花瓶がプラスチックなのは変。他の小道具は、
そのまま使ったのに新聞はなぜかパントマイムでやった。そういうバランスの悪さは避けるべき。
豆腐は、ケースだけだった。だったら、ケースに入った豆腐を持ち込むべきです。
 花瓶にバットを挿して「アバンギャルド」という台詞を言うのは、面白かった。
そういう芝居を生かしてほしい。
 衣装は、全般に色が地味でした。


9/17② 朝霞西高校『BETTER HALF』作:鴻上尚史

 難しい台本です。出会い系サイトで知り合った中年の沖村とトランスジェンダーの汀が、
それぞれ諏訪と遙香を代役に立てて会うことから4人が出逢い、そして別れていく物語です。
性同一性障害の人との恋愛とか性風俗(デリヘル)とかを役者である高校生がどう受けとっているのか。
観客となる高校生の受け取り方が不安なので私には上演できない作品です。
 大道具。4ヶ所の椅子のバランスが悪い。全体に上手に寄っていました。
一番下手の事務用の回転椅子、その隣の少し高めの丸椅子、次が抽象的な箱で、
一番上手に2人用ベンチソファ。実物の椅子に混じって抽象的な箱があるのが変です。
特に回転椅子はあまり使われませんでした。上中下3ヶ所に箱を置いた方が良かったと思います。
場所の違いは、照明の変化で表現する。舞台の奥行きがあるのに、サスバトンが1列しかないので、
照明は使い勝手が悪いですが。
 役者について。諏訪のモノローグに力がなく、残念なオープニングでした。
諏訪と沖村の滑舌が悪かったです。横向いて芝居することが多い。
2人ともヘアースタイルは高校生みたい。沖村の衣装も含めて、大人に見えるようにしてほしいです。
2人ともPR業界の人なんだから、もっとラフなような気もします。
 遙香は、台詞も明瞭で一人で芝居を回していました。汀を男が演じたのは驚きでした。
一般に高校演劇でおかまが出ると観客が笑うというお約束がありますが、
まじめに作っている姿勢がすぐに伝わったので(女にしか見えなかったから?)、笑いはまったく起きませんでした。
それほどの完成度なんだから、ブラジャーをつけて胸の膨らみも作ってほしかったです。
女の声を作ろうとしたのでしょうが、声は小さかったです。
役者の気づきの芝居がないです。舞台に登場するとき、いきなり真ん中に飛び込むと、
芝居が難しくなることを覚えましょう。
「僕の好きな人の悪口を言うな」とか「暗転」など極め台詞が極められない。
役者と演出力の問題だと思います。芝居の最後の方で、台詞を食い過ぎでした。60分を越えそうだったからでしょうか。
ビンタは、ちゃんとやってくれてよかったです。
エンディングは疑問です。緞帳の閉じるタイミングなど格好悪い。
汀は、サントワマミーを歌うべきでしょう。
ブリッジ曲は良くなかったです。


9/17③和光国際高校『あの雲は夏の名残り』作:萩原康節

 顧問創作。5年前、父母と姉の婚約者と同乗していた車の事故で
唯一生き残った高校1年生の友香。姉の頼子は、柔道家を諦めて父の会社のを引き継いだ。
事故以降、頼子は友香のことが許せず、二人の関係はうまくいっていない。
友香は、姉に自分を認めてもらおうと高校に入学し柔道を始めることにする。
 オープニングは観客を圧倒しました。中央で柔道着を着た人たちが群読し、
上下で大きな旗をはためかせる2人。ただし、センターにいた主人公の友香のみ靴を履いていました。
センターからもちょっとだけずれていました。旗は、サテン地でテカついていました。
もっともっと格好良さを追求してほしかったです。
 柔道を一生懸命練習したように見えました。でも打ち込み稽古は下手。相手に身体をぶつけない。
乱取りでは、投げられる方が飛びすぎでしたが、そうしないと怪我をするのでしょう。
 台詞は明瞭で良かったです。役者たちは力があると思いました。ただし私には、言葉を立てすぎていて、
わざとらしく臭く聞こえました。中には、歌ってしまっているような台詞もありました。
でもこれだけ台詞がしっかり言えて、表現する楽しさを知っている役者が多いのですが、
芝居自体は楽しめませんでした。(客席にはたくさんの観客がいて、楽しんでいるようでしたが)
私が楽しめなかった原因は台本にあります。
①台本に芯がなかったです。芯にしようとしたかったのは姉の成長だったのでしょうか。
しかし、姉がどうして亡くなった婚約者の久遠を卒業できたか伝わって来ませんでした。
妹の成長だったのでしょうか。試合には、勝ったけど人間的な成長は感じられませんでした。
姉妹の和解だったのでしょうか。でもそれも伝わってきませんでした。
姉が妹をどうして許すことができたのか。試合に勝ったからでしょうか。
しかも自分の得意技だった袖釣り込み腰で。
観客に伝わるようには描かれていないのではないでしょうか。
②暴力の描き方について。対戦相手である城西高校の生徒たちの暴力が私には許せませんでした。
ヤクザの暴力と同じだからです。自分たちが生き残るための暴力ではなく、
ただ相手を痛めつけるための暴力だからです。
悪役なのだから徹底的に悪役にした方が面白いからそうしたのでしょうか。
抽選会の暴力も、試合中の暴力も私には後味が悪かったです。
タップしている相手の腕を折るのを演じた役者さんは、それを役として納得できたのでしょうか。
見ていて痛々しくて、共感できなくて終わってしまいました。
③リアリティについて。コメディにもリアリティは必要です。
柔道をやっている人は、この芝居を見たら怒るのではと思いました。
試合中によそ見する審判とか、試合中に暴力を振るう選手とかです。
柔道部員は道着で家と試合会場を移動しない。監督がいないと団体戦は戦えない。
女子の団体戦に勝ち抜き戦はない。9月に3年生が出場する大会があるのか。
抽選会での畳の扱いが雑。など。
 姉の婚約者の久遠さんの姓はどうして牧野なのでしょう。
婚約者だったはずなのに「頼子に再婚相手が見つかったら」という台詞があったり。
演じている役者は、その矛盾に気がつかないのでしょうか。
 最後にいくつか細部について。
牧野家の大道具が統一されていませんでした。
1回目は椅子と机、2回目は椅子だけ、最後は椅子もなし。同じ場所には同じ道具を並べるのが芝居の約束ごとだと思います。
演出が終始マンガの様でした。しかし今時のマンガは、これほどこてこての悪ふざけはしないでしょう。
巻物、ぬいぐるみ、先生や悪役のキャラクター。観客を楽しませることには成功していると思いますが、
私には楽しめませんでした。


9/17④新座高校『パヴァーヌ』作:曽我部マコト

 私もかつて上演を考えたことがある作品です。数年前に川越西高校も上演していました。
高校2年生のユキと亡くなった双子の姉妹のアキの友人たちが偶然出逢い、
そこに居ないアキの不在を改めて実感するお話です。
『パヴァーヌ』とは、『亡き王女のためのパヴァーヌ』のことです。
 ユキとアキの友人たちのアキへの思いや、アキの不在をどう感じているのかが、
観客に伝われば舞台は成功といえるでしょう。
 オープニングはとても良かったです。客電が落ちて、
緞帳の向こう側から役者たちが歌うハッピーバースデイが聞こえてきて、
そして緞帳が開らく。こういう素敵なオープニングを見せられると期待感が増します。
 台詞のやりとりが良かったです。会話の相手だけでなく、他の役者の台詞をしっかり聞いています。
サナコが芝居を回していますが、でも他の役者も自分の台詞がなくても集中力を切らしていませんでした。
 芝居の問題点は、
回転椅子は要らないというか、回転椅子があるのならそれとセットの机が必要なのではないでしょうか。
ケーキは本物を食べてほしかったです。ただし、そんなことすると芝居が難しくなります。
カラーボックスが高すぎ。その隣の腰掛けるボックスは変です。
衣裳への気遣いが良くなかったです。制服の上着は脱ぐべきでしょう。
特に良くないのは、ユキと先生の衣装。
ユキは、退学届を取りに行く格好ではないです。
先生はリクルートスーツみたいで大人に見えなかったです。
ユキが何度もバッグを持たずに帰ろうとするのは変です。最後だけバッグを忘れるという演出にするべきです。
ソーマが不良っぽくなかったです。髪は茶髪でしょう。
階段を登る音は実音でやった方が良かったのでは。
ユキはもっとやつれた感じ、疲れた感じがほしかったです。
街は、東武東上線に置き換えてほしかったです。
ソーマがアキの言葉を語る正面芝居は、しない方がいいでしょう。不自然だし、観客よりも他の4人に届けるべきでしょう。
音(SE)を役者たちが待つことが多かったです。スタッフィングをもっと練習してください。
ラジカセから亡き王女のためのパヴァーヌを流すべきです。
曲を途中で止めてはダメだし、煽りもいらないです。
アキの座布団の位置が上手袖で寂しかったです。もっと適切な位置を考えてください。
ラスト2ページカットしないで欲しかったけど、そうしたら60分をオーバーするんでしょうね。
ラスト、兄が買ってきたジュースをサナコが持ってきたのに、兄がいつになっても上がってこないのは変です。
最後に、
アキがどうして亡くなったのか、その死因を話し合ってください。
そして、どうしてユキが、退学届を受け取った直後にアキの学校がある街にやって来たのか考えてください。


by kawagoenishi | 2016-09-19 17:53 | 演劇 | Comments(0)

高校の演劇部の顧問のほぼほぼ日記です。

by kawagoenishi